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2013年10月8日 IP情報

カルピス登録商標「ほっとレモン」の取消決定取消訴訟へのご質問

弁理士 田口 健児

【ご質問内容】

 商標「ほっとレモン」に関して、カルピス(アサヒ飲料)がサントリー/キリンから異議を申し立てられ、知財高裁で取消決定取消請求が棄却されてています。

 

1.この商標訴訟に関しての訴訟ポイントや、判決内容等について、ディスカッション/レクチャーをお願いいたします。

 

(1)平成24年(行ケ)第10352号  商標登録取消決定取消請求事件の経緯

A)   登録第5427470号商標

平成21年12月1日   登録出願

平成23年6月27日   登録査定

平成23年8月23日   発行

平成23年10月21日 登録異議の申立て 訴外サントリーホールディングス株式会社

        自他商品識別標識としての機能を果たし得ず(商標法3条1項3号)、

        本件商標は,需要者が何人かの業務に係る商品であるかを認識することができない(商標法3条1項6号)

平成23年10月24日 登録異議の申立て 訴外キリンホールディングス株式会社

        自他商品識別標識としての機能を果たし得ない(同項3号)

平成24年9月4日   本件商標の商標登録を取り消す旨の決定

平成24年        商標登録取消決定取消請求 原告 カルピス株式会社

平成25年8月28日  判決言渡

 

(2)商標登録取消決定取消請求の棄却理由

①商標法3条1項3号(記述的商標)

A)   片仮名「レモン」部分は、果実の「レモン」又は「レモン果汁を入れた飲料又はレモン風味の味付けをした飲料」であることを意味する

B)   平仮名「ほっと」部分は,上記指定商品との関係では,「熱い」,「温かい」を意味する

C)   上辺中央を上方に湾曲させた輪郭線により囲み枠を設けることは,清涼飲料水等では,比較的多く用いられているから強い印象を与えるものではない

D)   「ほっとレモン」の書体についても,通常の工夫の範囲を超えるものとはいえない

 

②商標法3条2項(使用による特別顕著性)

A)   使用商標には、本件商標にレモンの図形等が施されているため、使用によって出所識別機能を有するに至ったとはすることはできない。

B)   原告からの依頼を受けて行った本件商標に関連した調査結果から、本件商標が,その使用によって、特定の出所識別機能を有するものとなったことを認定するに足りる調査結果を見出すことはできない。

 

(3)ポイント

①   6つの登録商標

 カルピスは、2009年12月1日に商標「ほっとレモン」について6つの商標登録出願を行っています。「ほっと\レモン」3出願と「CALPIS co.\ほっと\レモン」3出願です。

 そのそれぞれについて、丸、四角、上辺中央を上方に湾曲させた四角の3タイプの輪郭があります。

②   異議申立が提起された3つの登録商標

 「ほっと\レモン」3出願にのみ異議申立がされております。

「CALPIS co.\ほっと\レモン」3出願については現在も存続しております。

「CALPIS co.」に自他商品識別力があるため、異議申出理由がなかったためと思われます。

③   3件中1件だけしか審決取消訴訟を提起しなかった理由

 上辺中央を上方に湾曲させた四角の「ほっと\レモン」しか実際には使用していないので、

この登録商標でしか3条2項の主張ができなかったためと思われます。

④   不使用の認定

 使用商標には、レモンの図や黄色い背景が入っていたため、登録商標と同一と見なされず出所識別機能を有するに至ったとはすることはできないので、3条2項の適用も認められませんでした。

この判断は、不使用取消審判でも踏襲されるおそれがあります。

基本の商標だけでなく、実際に使用する商標も登録した方がよいと思われます。

⑤   アンケートの提出

 カルピスは、3条2項に該当する証拠として、自社で調べたアンケート結果を提出しています。

しかし、「ほっとレモン」がカルピスの商標であると答えた人は、全体の1%程度に過ぎず、しかも、1位はポッカでした。

 知財高裁では、このアンケート結果も引用して、「ほっとレモン」がカルピスの商標であると

需要者に知られているとは言えないと判断しています。

自社に不利となるアンケートをなぜ提出したのか、謎が残ります。

   3つの新しい登録出願

 商標登録が取消された後の平成25年5月29日に「CALPIS\ほっと\レモン」を上記3タイプの輪郭で出願しております。

現在の使用商標に近い形で登録し直したものと思われます。

ただし、実際に使用している商標には、レモンの図や黄色い背景が入っていたため、不使用取消審判において

社会通念上同一の商標とみなされないおそれがあります。

   キリンの登録商標

 キリンも「ホットレモン」の商標をカルピスよりも前に出願して登録されております。

 しかし、最近の使用商標と同一の範囲を超えてしまっているので、権利行使できない可能性があるものと思われます。

 

2.また、今回は同業のライバル会社からの異議申立が事の発端ですが、商標について、

他者がどのような出願をしているか、等の調査はどのように行っているか、レクチャーをお願いいたします。

 

 今回は、カルピスから商標「ほっとレモン」若しくはこれに類似する商標の使用差止を求められたサントリーとキリンが、

その防衛手段として、カルピスの登録商標「ほっとレモン」について異議を申し立てたようです。

 従いまして、サントリーとキリンがカルピスの全ての商標公開をウォッチングをしていたかどうかは不明です。

 

 競合他社の全出願を調査することは時間と費用を多大に要するので、自社が使用する予定のない商標についてまではウォッチングしていない場合が多いです。自社の登録商標に類似する商標が出願されていないかを調査することが一般的です。

 ただし、競合する企業が少ない場合や、特に注目する企業がある場合は

企業数を絞ってウォッチングしているものと思われます。

 

以上

 

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