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2013年10月25日 IP情報

佐藤食品・きむら食品VS越後製菓:切り餅訴訟に関する考察

 弁理士 田口 健児

【ご質問】

お客様から下記のような質問をいただきました。

「切り餅特許訴訟(さとうの切り餅VS越後製菓)に関して、その後、他社(きむら食品)への訴訟の拡大がされています。

改めて技術内容および訴訟内容の説明をお願いいたします。」

 

1. 訴訟内容(経緯)

2002年10月21日 佐藤食品がイトーヨーカドー限定で、サイドにスリットを入れた切り餅を約1ヶ月間販売

2002年10月31日 越後製菓が餅の特許出願

2003年 7月17日  佐藤食品が切り餅の特許出願

2004年11月26日 佐藤食品の特許登録(特許第3620045号)

2006年 7月31日 佐藤食品が新潟県工業共同組合に無償で実施権を供与

2006年 8月23日 きむら食品が新潟県工業共同組合と特許実施契約を締結

2008年 4月18日 越後製菓の特許登録(特許第4111382号)

2009年 1月27日 佐藤食品が判定請求

2009年 3月22日 越後製菓が佐藤食品工業を提訴(第1訴訟)

2009年 6月26日 佐藤食品の餅は越後製菓の特許発明の技術的範囲に属さないと判定

2010年11月30日 東京地裁が佐藤食品の勝訴判決

2010年               越後製菓が高裁に上告

2011年 9月 7日 知的財産高等裁判所が佐藤食品の侵害を認める逆転判決(中間)

2011年               佐藤食品が大量の証拠を提出(きむら食品木村社長の陳述書

2012年 3月22日 知的財産高等裁判所が佐藤食品に約8億円の損害賠償の支払い、

                         対象製品の販売禁止、製造設備の撤去を命令(最終)

2012年 3月26日 木村社長が越後製菓の山崎会長から、陳述書の撤回を依頼

2012年3月           佐藤食品が最高裁に上告

2012年 4月27日 越後製菓が佐藤食品工業を提訴(第2訴訟):約19億円の損害賠償

                           第1訴訟で対象にした製品:2011年11月1日~2012年4月27日

                           第1訴訟で対象にした製品以外の製品:~2012年4月27日

2012年 5月14日 木村社長が越後製菓の山崎会長から、

           陳述書を撤回しない場合、20億円程度の損害賠償を検討と通告を受ける

2012年 9月19日 最高裁判所が佐藤食品の上告を棄却

2012年10月         きむら食品が越後製菓の特許実施料の支払いを求める内容証明を受領

2012年12月25日   きむら食品に越後製菓から、67億円の損害賠償請求の警告書

2013年 4月26日 越後製菓がきむら食品に45億円の損害賠償請求

 

無題

(東洋経済ONLINEから引用)

 

2. 技術内容について

(1)特許第3620045号(佐藤食品工業):佐藤食品、きむら食品が実施

【請求項1】

上面,下面,および側面に切り込みを入れ、前記上面と下面には十字の切り込みを入れ前記側面には横方向の切り込みを入れるとともに、前記十字の切り込みは、切り餅の長辺と略平行な切り込みと、切り餅の短辺と略平行な切り込みからなり、前記長辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの30~40%とし、前記短辺と略平行な切り込みの深さを切り餅の厚さの20~30%としたことを特徴とする切り餅。

【発明の効果】

【0009】

 本発明の切り餅によれば、きれいに整った外観に焼くことができ、焼いて調理した後にきれいに分割することのできる切り餅を提供すること。

 

(2)特許第4111382号(越後製菓):越後製菓が侵害を主張した権利

【請求項1】

 焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け(構成要件B、この切り込み部又は溝部は、この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として、焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり、最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成したことを特徴とする餅。

【0008】

 本発明は、このような現状から餅を焼いた時の膨化による噴き出しはやむを得ないものとされていた固定観念を打破し、切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に、焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき、しかも切り込みの設定によっては、焼き上がった餅が単にこの切り込みによって美感を損なわないだけでなく、逆に自動的に従来にない非常に食べ易く、また食欲をそそり、また現に美味しく食することができる画期的な焼き上がり形状となり、また今まで難しいとされていた焼き餅を容易に均一に焼くことができ餅の消費量を飛躍的に増大させることも期待できる極めて画期的な餅を提供することを目的としている。

 

3. 技術的範囲に属するか否かのそれぞれの判断

(1)特許庁の判定:2009年5月22日

佐藤食品の「餅」は、特許第4111382号発明の技術的範囲に属しない。

 

(2)地裁の判断:2010年11月30日

構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,・・・切り込み部又は溝部を設け」るとの文言は,切餅の「載置底面又は平坦上面」には切り込み部等を設けず,「上側表面部の立直側面である側周表面」に切り込み部等を設けることを意味するものと解釈するのが相当。

(かなり経過情報を参酌し、禁反言にに基づき判断しています。)

 

(3)知財高裁の判断:2011年9月7日

1. 技術的範囲

 「載置底面又は平坦上面ではなく」は、載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けることを除外する記載ではない

 よって、被告製品は、本件発明の技術的範囲に属する

2. 無効理由

 証拠品の餅が平成14年10月18日に製造され、同月21日以降、イトーヨーカドーにおいて販売された「こんがりうまカット」であるとの事実を認めることはできない

 仮に、平成14年10月21日に発売された「こんがりうまカット」に、上下面のみならず側面にも切り込みが施されていたならば、特許出願前に自ら公然実施をしていながら、その事実を秘匿して特許出願に至ったということになる。

 よって、同特許は特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。

 

(4)知財高裁の判断に関する考察

 佐藤食品が第1訴訟で敗訴した原因は、知財高裁の担当裁判官が裁判所に証拠として提出された当時の餅を後日捏造したものと疑った可能性が極めて高いという悪感情により下されたものとの見解があります。

 判決文を読んだ限りですと、そういった理由のみで逆転判決となったものではないと思われます。

 逆転判決の理由は、あくまで「載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部を設けることを除外する記載ではない」との極めて普通な認定によるもので、感情論ではないようです。

証拠として提出された餅について、後日捏造したものと疑ったのが原因とは思えませんでした。

裁判官は、その餅を越後製菓の特許権を無効にする証拠としては、採用することは出来ないと言っているだけでした。

 

4. きむら食品への提訴に対する主張についての考察

 きむら食品の主張の柱は以下の4点です。

(1)きむら食品の製品は越後製菓の特許の技術的範囲に属さない。

 佐藤食品の裁判で、知財高裁が佐藤食品の製品を侵害品と認定したため、佐藤食品の製品サイドスリットが1本しか違わないきむら食品の製品を東京地裁が技術的範囲に属さないという上級審の判決を覆す認定をする可能性は低いと思われます。

 

(2)越後製菓の特許出願前に佐藤食品が側面スリット入りの餅を発売し、自分はそれをイトーヨーカドーの店頭で購入しているので、越後製菓の特許技術は「公知」であって無効。

 佐藤食品の裁判で、知財高裁がこの主張(公知技術の抗弁)を認めなかったので、よほど決定的な証拠が提出されない限り、きむら食品の裁判でもこの抗弁は認められないでしょう。ただし、たいまつ食品による越後製菓の特許権に対する無効審判が特許庁に継続しているため、この特許権が無効になった場合には、抗弁が認められる可能性あります。

 

(3)県餅工理事会の場で再許諾に異議を唱えなかったにも関わらず提訴したのは信義則違反。

 越後製菓の特許(サイドスリット)と佐藤食品の特許(上下面に十字スリット)は別の発明であるため、再許諾に異議を唱えないで提訴しても信義則違反にならないと思われます。

 

(4)越後製菓自身が承認していた、県餅工からきむら食品への実施料と比べて著しく巨額であり、そもそもこの特許が有する価値と比べて著しく巨額な請求であり不当

 この主張は、特許権侵害の可否の問題ではなく、損害額算定の問題となるため、このように主張しても侵害の可否についての判断には影響しないものと思われます。

以上

 

 

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