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2013年12月12日 IP情報

任天堂VSモンテローザ:登録商標「WaraWara」異議決定

弁理士 田口 健児

【ご質問】

 お客様から下記のような質問をいただきました。

「居酒屋チェーン店経営のモンテローザが、商標「WaraWara」(商標権者:任天堂)に関して、特許庁へ商標登録異議申立を行ったことがニュースとなりました。
 今回の異議申立に関して、モンテローザ側の考え、申立ポイント、特許庁判決等のレクチャーをお願いいたします。」

 

1. モンテローザの異議申立て理由
(1) 商標法第4条第1項第15号該当性
 引用商標は、申立人の商標として、周知著名性を有しているから、これと社会通念上同一又は完全同一の本件商標がその指定商品及び指定役務に使用された場合は、商品及び役務の出所について混同を生ずるおそれがある。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当する。

(2) 商標法第4条第1項第19号該当性
 引用商標は、申立人の商標として、周知著名性を有している。本件商標の商標権者のような大企業が、引用商標と社会通念上同一又は完全同一の商標を大規模に使用すれば、引用商標の出所表示機能の希釈化、名声毀損等の結果を招くのは自明の理であり、本件商標は、不正の目的をもって使用する商標である。
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当する。

 

2. 特許庁審判管の判断
(1) 商標法第4条第1項第15号該当性について
① 引用商標等の著名性
 「笑笑(わらわら)商標」は、本件商標の登録出願前より、申立人の業務に係る役務「飲食物の提供」を表示するものとして、我が国の飲食物の提供の分野の需要者の間に広く認識されていたものである。

 「WARAWARA」の欧文字からなる引用商標3は、本件商標の登録出願時において、申立人の業務に係る役務「飲食物の提供」を表示するものとして、その需要者の間に広く認識されていたと認めることはできないものである。

② 本件商標と笑笑(わらわら)商標の類似性
 本件商標は、「WaraWara」の文字を標準文字で表してなるものであるから、その構成文字に相応して、「ワラワラ」の称呼を生ずるものである。「WaraWara」の文字が、「散りみだれるさま。ばらばら。」(広辞苑)あるいは「多くの人が群れ集ったり、群衆がばらばらと散っていったりするさま。破れ乱れたさま。ばらばら。」(デジタル大辞泉)を意味する「わらわら」の語のローマ字表記といえるものであるから、本件商標からは、「散りみだれるさま。ばらばら。多くの人が群れ集ったり、群衆がばらばらと散っていったりするさま。破れ乱れたさま。」の観念を生ずるものというのが相当である。

 引用商標1は、「笑笑」の文字を横書きしてなるものであるところ、該文字は、「ワラワラ」と称呼され、「ワラワラ」の称呼を生ずるものである。そして、観念については、申立人の営業に係る居酒屋を直ちに想起させるものといえる。

 引用商標2は、「わらわら」の文字を標準文字により表してなるものであるから、その構成文字に相応して、「ワラワラ」の称呼を生ずるものである。そして、これよりは、申立人の営業に係る居酒屋を直ちに想起させるものといえる。

 使用商標1及び2は、その構成中、顕著に表された「笑笑」の文字及びそれに付された「わらわら」の文字より「ワラワラ」の称呼を生じ、申立人の営業に係る居酒屋を直ちに想起させるものといえる。

 本件商標と笑笑(わらわら)商標は、「ワラワラ」の称呼を同じくするものの、外観上明らかに相違し、観念上も大きく相違するものであるから、類似する商標ということはできない。

③ 出所の混同
 本件商標の指定商品及び指定役務と笑笑(わらわら)商標が使用される「飲食物の提供」とは、関連性が極めて低ものであり、また、本件商標と笑笑(わらわら)商標とは類似しないものであるから、本件商標に接する需要者が、申立人の業務に係る笑笑(わらわら)商標を想起又は連想することはないというのが相当である。

 引用商標3は、申立人の業務に係る役務を表示するものとして広く知られているとはいえないものであり、本件商標と引用商標3が類似するとしても、本件商標に接する需要者が、引用商標3を想起又は連想することはないというのが相当である。

 本件商標は、これをその指定商品及び指定役務について使用しても、その需要者をして、該商品及び役務が申立人又は申立人と何らかの関係を有する者の業務に係る商品及び役務であるかのように、商品及び役務の出所について混同を生じさせるおそれのある商標ということはできない。

④ 結論
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第15号に該当しない。

 

(2) 商標法第4条第1項第19号該当性について
① 引用商標等の周知著名性
 笑笑(わらわら)商標は、申立人の業務に係る役務「飲食物の提供」を表示するものとして、本件商標の登録出願時には既に、「飲食物の提供」の分野の需要者である一般消費者の間に広く認識されていたといえる。
「WARAWARA」の欧文字からなる引用商標3は、申立人の業務に係る役務「飲食物の提供」を表示するものとして、本件商標の登録出願時において、その需要者の間に広く認識されていたと認めることはできない。

② 本件商標と笑笑(わらわら)商標の類否
本件商標と笑笑(わらわら)商標とは、称呼を同じくするものの、外観上明らかに相違し、観念上も大きく相違するものであるから、類似する商標ということはできない。

③ 不正の目的
本件商標は、笑笑(わらわら)商標が使用される「飲食物の提供」とは、関連性が極めて低い商品及び役務の分野において使用されるものであること、引用商標3「WARAWARA」は、広く知られている商標とはいえないこと及び本件商標は、「散りみだれるさま。ばらばら。多くの人が群れ集ったり、群衆がばらばらと散っていったりするさま。破れ乱れたさま。」の意味を有する「わらわら」の語(広辞苑、デジタル大辞泉)のローマ字表記と認識され得ること等を併せ考慮すると、本件商標権者が、笑笑(わらわら)商標の著名性にただ乗り(フリーライド)することを意図として登録出願し、本件商標をその指定商品及び指定役務について使用することにより、不正の利益を得ようとする意図があったということはできないから、本件商標は、不正の目的をもって使用をする商標と認めることはできない。

④ 結論
 したがって、本件商標は、商標法第4条第1項第19号に該当しない。

 

3. 私の見解
 私は、特許庁の判断は、妥当であると思いました。
 登録商標「WaraWara」の指定商品は、殆どゲームに関するものなので、これを使用したからといって、モンテローザがゲーム類を販売しているとは思えません(4条1項15号)。
 また、任天堂がゲーム類に登録商標「WaraWara」を使用した結果、モンテローザの登録商標「笑笑(わらわら)」が「飲食物の提供の出所表示であることが薄まり、登録商標「笑笑(わらわら)」の名声が傷つけられるという主張には、無理があるように感じられたからです。

 

 ただし、モンテローザ側の目的が「笑笑」「わらわら」「WARAWARA」という自社登録商標について、指定役務が類似していなくても、商標が類似していれば行動を起こすという強い意思を表すことであれば、その目的は果たされたのではないでしょうか。

 

 

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