2014年2月27日 IP情報
1. 大阪高等裁判所の判決内容
「控訴人の本件控訴並びに当審における請求(変更後の差止請求・廃棄請求及び予備的損害賠償請求)
をいずれも棄却する。」
2. 判決のまとめ
(1) 控訴人各表示は,控訴人の商品表示として周知著名なものであるか。
「正露丸」自体は普通名称である。この理は、「正露丸」のカタカナ表記である「セイロガン」についても同様である。「糖衣」は、製剤の一類型を指称する普通名称であることが認められる。「A」はアルファベットの最初の文字に過ぎず、それ自体では自他商品識別力を認めることはできない。上記のとおり,控訴人表示1及び控訴人表示2の「セイロガン」,「糖衣」,「A」の各要素自体については自他商品識別力を認めることはできない。
自他商品識別力は表示の構成のみによって生じるのではなく,取引の実情に応じて獲得されるものであるから,普通名称を本来の意味どおりに使用した場合であっても,使用の態様や取引の実情から自他商品識別力を獲得し得る場合がある。
控訴人表示1及び控訴人表示2は,多年にわたる販売,広告宣伝により,その本来の意味内容を超えて,控訴人商品を指称する表示として周知著名なものとなっていることが認められる。
控訴人表示2は,控訴人の標章であるラッパのマークとは独立して,控訴人商品を示す商品表示としての識別性を獲得しているというべきである。
つまり、「「セイロガン糖衣A」という表示は、もともと他の人の商品と区別できない表示だが、大幸薬品が使用することによって、ラッパのマークが付かない文字だけでも区別できる表示となった」と認められています。
(2)被控訴人各表示は,控訴人各表示と同一又は類似の商品表示であるか
被控訴人が被控訴人表示1(「正露丸糖衣S」)を使用しているとは認められないし,被控訴人表示2(パッケージ)が控訴人各表示(文字商標「セイロガン糖衣A」、特殊文字商標「セイロガン糖衣A」、及びパッケージ「セイロガン糖衣A」)と同一又は類似の商品表示であるとは認めることはできないものと判断する。
つまり、このパッケージでは、キョクトウは商標「正露丸糖衣S」を使用していないし、パッケージは「セイロガン糖衣A」と類似の商品表示ではないということです。
①被控訴人表示1の使用の有無
被控訴人表示1は、「正露丸糖衣S」という漢字5文字とアルファベット1文字を普通の活字体で連続して一連一体に表示したものである。
被控訴人表示2中に、特段のデザイン化等のされていない上記の「正露丸糖衣S」と同一の表示が存在しないことは明らかである。控訴人が主張するように、被控訴人表示2から「正露丸糖衣S」の表示(ただし,外観上,被控訴人表示1と同一のものではない。)が読み取れ,「セイロガントーイエス」の称呼が生じるとしても,それは被控訴人表示1そのものの使用とは別の問題である。
②被控訴人表示2と控訴人各表示との類否について
被控訴人表示2においては、「正露丸糖衣S」の部分が一連に結合して商品表示となっているものと認められる。
称呼についてみると,控訴人各表示からは「セイロガントーイエー」の称呼が生じ,被控訴人表示2の「正露丸糖衣S」の部分からは「セイロガントーイエス」の称呼が生じる。これらを比較すると,10文字からなる称呼のうち最後の1文字が違うだけである。
観念についてみると,控訴人各表示からは,周知著名の糖衣錠タイプの家庭用胃腸薬「正露丸」である「セイロガン糖衣A」という商品名が想起されるといえる。これに対し,被控訴人表示2の「正露丸糖衣S」の表示からは,そのような商品名の糖衣錠タイプの家庭用胃腸薬「正露丸」であるとの観念が生じると考えられる。
それぞれの外観は,前記の控訴人各表示の構成と被控訴人表示2の構成で記述したとおりであり,これらが外観上類似しているといえないことは明らかである。
称呼については,確かに,「セイロガントーイエー」と「セイロガントーイエス」とでは,最後の1文字が異なるだけであるし,観念にしても「セイロガン糖衣A」と「正露丸糖衣S」という商品名を比べると,実質的な違いは「A」と「S」の部分だけといえる。アルファベットの「A」と「S」とは,一般に発音上紛らわしいものではなく,聞き間違えによる誤認の可能性がないとはいえないにしても,その可能性はそれほど大きくない。また,医薬品が陳列されている薬局やドラッグストア等で需要者が買い求める一般の家庭用医薬品であるという本件の取引の実情に照らすと,称呼のみで取引される可能性がそれほどあるとも考えにくい。
外観を見ると,「セイロガン」ないし「正露丸」のカタカナと漢字の違いほか,全体にデザインが明らかに異なっているのであり,特に大きく表示されている「A」と「S」のデザイン上の差は大きい。
「正露丸」と「糖衣」が普通名称であり,これらの表示部分についても文字の表記,フォント,デザインが異なることに加え,控訴人各表示と被控訴人表示2の実質的な相違部分である「A」と「S」の間で顕著にデザインが異なることからすると,両者の商品表示は類似しているとはいえないと判断するのが相当である。
つまり、「両商標は類似していない」ということです。
理由は非常に不明瞭です。
「称呼は、類似しているけれども混同のおそれは大きくない。
観念は、「セイロガン糖衣A」と「正露丸糖衣S」という商品が想起される。
パッケージの外観は非類似である。
家庭薬品は称呼で取引される可能性が低いから、類否判断に対する影響は小さい。
大きく表示されている「A」と「S」の差が大きいから影響が大きい。
称呼と観念が類似していたとしても、取引の実情から類否判断に影響を与える外観が類似していないから非類似である」
ということでしょうか。
(3)結論
被控訴人が被控訴人表示1を使用しているとは認められないし,被控訴人が被控訴人表示2を使用して被控訴人商品を製造販売する行為が法2条1項1号又は2号の不正競争に該当するとは認められない。
つまり、上記のパッケージを使用しても、「正露丸糖衣S」という商標の使用に当たらなし、パッケージも類似していないので、大幸薬品の著名商標「セイロガン糖衣A」に対する不正競争に当たらないということです。
大幸薬品の敗訴となりましたが、大幸薬品は、最高裁に上告しております。
最高裁での判決が非常に気になります。