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2015年7月6日 IP情報

審決取消請求事件:商標「ADMIRAL」平成26年(行ケ)第10170号(商標法第53条の取消審判)

弁理士 田口 健児

知財高裁が最近判決を言渡した事件を検討しています。

原告:双日ジーエムシー株式会社
被告:株式会社IBEX

 

1. 主文
(1)特許庁が取消2013-300427号事件,取消2013-300429号事件,取消2013-300430号事件,取消2013-300432号事件,取消2013-300433号事件について平成26年6月11日にした各審決をいずれも取り消す。
(2)訴訟費用は被告の負担とする。

 

2. 当裁判所の判断
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 使用権者の不正使用取消審判についての却下審決に対する審決取消訴訟です。特許庁が不正使用に当たらないとして維持した上記商標を含む5件の商標権について、知財高裁が不正使用を認めて、商標権を取り消しました。

 

3. 事件の経緯

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(1)5つの商標権は、元々、指定商品「サンダルを除く履物」と「サンダル」の両方を含んでいました。最初の商標権者であるスイス連邦の法人「アドミラル スポーツウエア ライセンス アーゲー」から,本件ブランドのライセンス会社であったスイス連邦の法人「インターナショナル ブランド ライセンシング アーゲー」へと移転され、さらに日本国の株式会社アイ・ピー・ジー・アイに移転登録されました。

 

(2)原告双日ジェーエムジー株式会社は、平成17年8月にアイ・ピー・ジー・アイ社から「サンダルを除く履物」ついて、独占的使用権の許諾を受けました。独占的使用権とは、使用権者以外の登録商標の使用を禁ずる使用権です。
 原告は,スポーツシューズとしてではなく,日本人に合った,ファッションに特化したタウンユースとしての靴を新たに開発,販売をすることとし,細身で,底が薄く,スタイリッシュなデザインのスニーカーを独自にデザインし,その3箇所に原告使用商標を付した「ワトフォード」モデルなどを製造,販売しました。平成18年9月頃の販売開始時から,使用権者商品の販売開始時である平成25年3月頃までの約6.5年の間の原告の「ワトフォード」(Tricolor)の累積販売数は平成26年11月時点までで約12.9万足です。
 そして、原告双日ジェーエムジー株式会社は、平成20年9月18日に指定商品「サンダルを除く履物」について商標権を譲り受けました。

 

(3)被告株式会社IBEXは、平成20年10月29日に指定商品「サンダル」ついて商標権を譲り受けました。そして、株式会社IBEXは株式会社チヨダに独占的使用権を許可しました。
 チヨダは,靴及びゴム履物等の製造及び販売等を業とする会社であり,平成25年3月頃から,「クロッグサンダル」というタイプのサンダルの1種類として,写真右側のサンダルを販売しました。「クロッグサンダル」とは、つま先側の部分は通常の運動靴と同様に覆われているが,踵側の立ち上がり部分が靴と異なって低くえぐれており,簡単につっかけて履くことができるような形状のものをいいます。
 平成25年3月ないし5月当時,チヨダの大型販売店舗においては,原告の「ワトフォード」モデルの商品(写真左側)と使用権者商品(写真右側)とは,同じ棚で,原告の商品が上下の段に,使用権者商品がその中段に陳列されるなどの態様で,販売されており,同棚に,原告商品と使用権者商品が出所の区別ができるような表示はされていませんでした。

 

4. 当裁判所の判断
商標法第53条の取り消し要件について、当裁判の論点は、2つです。
(1)使用権者の商標の使用が「混同を生ずるものをした」に当たるか
(2)商標権者は、使用権者が不正使用しないよう相当の注意を払っていたか
裁判所は、混同を生ずるものにあたり、相当の注意を払っていなかったと判断しました。

 

5. 論点
論点1. 使用権者商標の使用は,法53条1項本文の「他人の業務に係る商品・・・と混同を生ずるものをしたとき」に当たるか。
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シュータン(靴ベロ)、側面、中敷の3ヶ所に商標を付した点が共通し、それぞれの商標の種類も位置もほぼ同一です。
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両商品が掲載された雑誌が同一であることから需要者も共通です。
大手靴量販店であるチヨダの店舗で同じ棚に並べられて販売されていました。
以上から、需要者に出所混同のおそれを生じさせたと判示されています。

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論点2. 被告は,法53条1項ただし書の「当該商標権者がその事実を知らなかった
場合において,相当な注意をしていた」といえるか。

 そもそも本件商標権から引用商標権が分割され、「履物(サンダル等を除く)」と,「サンダル等」という類似する指定商品について同一の商標に係る商標権が異なる権利者に移転されたのだから、具体的な混同を生ずるおそれがないかどうかについて注意をする義務を負っていました。
 だから、被告が当時,具体的に原告商品自体知らなかったため,使用権者商標が,原告使用商標の使用態様と酷似し,同商品との混同を生ずるおそれがあることを知らなかったとしても,そのことを知るための相当の注意を欠いていたというべきとのことです。そして、本件商標権は取消されました。

 

6. 私の見解
 使用権者の不正使用により、商標権者の登録商標が取消されたケースです(商標法53条)。元の商標権が分割されているため、問題が複雑になっています。なお、不正使用したのが、被告の株式会社IBEXの場合には、商標法53条の2の取消対象になります。

 商標権者は、こういった取消審判について、詳しくなかったのかもしれません。そのため、使用権者の登録商標の使用態様について、相当の注意をする責任があることを知らなかった可能性があります。さらに、使用権者との独占的通常使用権の設定契約にもこの旨が含まれていなかったおそれもあります。

 商標権の譲渡や、使用権の設定には弁理士など知的財産権の専門家の意見を訊くことが大切です。

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