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2014年11月19日 IP情報

拒絶査定取消事件紹介:「KOHALA」生産地との認定(商標法第3条第1項第3号違反)

弁理士 田口 健児

 

 私が担当した商標が拒絶査定不服審判において拒絶査定を取り消されて登録されました。

 

 商標が指定商品の生産地と認識されるとして拒絶査定を受けることは、非常に多いです。今回は、拒絶査定不服審判の請求の理由を審判官に適切にご理解いただくことができました。

 

 取消審決に至った経緯をご紹介します。

 

【出願番号】 商願2012-103876
【出願日】 平成24年(2012)12月21日
【出願人】 マッティー.ホーナー アーゲー
【標準文字商標】 KOHALA
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】
15 楽器,楽器用ケース,楽器専用携帯バッグ,楽器専用収納バッグ

 

第1. 出願依頼時
 出願の依頼を受けたとき、ハワイにKohalaという地名があることに気づきました。あまり聞いたことがない地名だったので、生産地(3条1項3号)と認定されるとすれば失当と考えていました。

 しかし、実態をあまり考慮しない審査官が担当した場合、辞書等に記載されていることを根拠に、自動的に拒絶理由を通知する可能性があると考えました。
 そのため、出願人には、出願前に拒絶理由が通知される可能性がある旨を伝えていました。

 

第2. 拒絶理由通知受理時
 予想通り拒絶理由が通知されました。内容を見た時、「やはり、そう来たか。」と思いました。
拒絶理由は、「Kohalaは、ハワイ島北西部の地名であるので、需要者・取引者は、当該商品が「コハラで製造・販売された商品」であることを表示したものと看取・理解するというのが相当」というものです。その証拠は、「外国地名レファレンス事典」と「kotobank.jp」のサイトのみでした。「Kohalaという地名があるから、需要者は、そこで作っていると認識する」というのは、実態を考慮しない、画一的な審査だなと思いました。

 

【拒絶理由】
 この商標登録出願に係る商標(以下「本願商標」といいます。)は、アメリカ合衆国ハワイ州ハワイ島北西部の地名である「コハラ(Kohala)」を示す「KOHALA」の文字を、標準文字で現してなるものです(下記をご参照ください。)。
 そうすると、本願商標をその指定商品に使用するときは、これに接する需要者・取引者は、当該商品が「コハラで製造・販売された商品」であることを表示したものと看取・理解するというのが相当ですから、本願商標は、単に商品の産地、販売地を普通に用いられる方法で表示するにすぎないものと認めます。
 したがって、本願商標は、商標法第3条第1項第3号に該当します。

 

【引用文献】
1)「外国地名レファレンス事典[日外アソシエーツ 2006年]」に「コハラ半島 Kohala 米国の半島名。」の記載があります。

 

2)「kotobank.jp」のサイトに、「世界の観光地名がわかる事典の解説 コハラコースト【コハラコースト】Kohala Coast アメリカのハワイ州ハワイ島、北西部の海岸線にある高級リゾートエリア。荒涼とした溶岩台地のなかに4つの高級リゾート(マウナケアリゾート、マウナラニリゾート、ワイコロアビーチリゾート、フアラライリゾート)が点在し、寺などの歴史的建物や白い砂浜など、見どころも多い。・・・ 」の記載があります。
(http://kotobank.jp/word/%E3%82%B3%E3%83%8F%E3%83%A9%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88)

 

第3. 意見書提出時
1. 引用情報について
審査官が引用した「kotobank.jp」について、
(1)荒涼とした溶岩地帯には工場などの製造設備がないため、指定商品を生産することは実質上、不可能であること、
(2)「Kohala」が楽器等の販売地として、広く一般に知られているという事実を見いだすことができなかったこと、
を反論しました。

 

2. 主な主張
 コハラ(Kohala)は、ハワイが著名であったとしても、その一部である該地域が「ハワイ」「グアム」「サイパン」等と同列に扱うことができる程度に知られているとは言えず、我が国において、一般に広く認識されている地名とはいい難く、本願の指定商品の産地、販売地であるというような事情も認められない。
 よって、本願商標からは、取引者、需要者をしてハワイ島の一地域と認識される場合があったとしても、そのことをもって直ちに指定商品の産地、販売地であると認識するとまではいい難いと主張しました。

 

第4. 拒絶査定受領
 拒絶査定を受領しました。理由の内容は、審査基準の単なる引き写しと強引な引用情報でした。意見書の内容が個別具体的に検討されたようには感じられませんでした。

 

 私は、提出した意見書において、
「コハラ(Kohala)は、我が国において、一般に広く認識されている地名とはいい難いので、取引者、需要者をしてハワイ島の一地域と認識される場合があったとしても、そのことをもって直ちに指定商品の産地、販売地であると認識するとまではいい難い」
と主張しました。

 

 しかし、審査官は、
「“その土地において指定商品が生産、販売されているであろう”と需要者・取引者に一般に認識される」
とし、その根拠は、
「コハラにおいて楽器のウクレレが広く親しまれている」
からという、根拠として薄いと感じられるものでした。

私は、まず、個人のブログを引用情報として採用したことは適切でないと思いました。
また、「ウクレレが広く親しまれている」から、「“その土地において指定商品が生産、販売されているであろう”と需要者・取引者に一般に認識される」というのは、根拠から結論まで飛躍し過ぎていると感じました。

 

【拒絶査定の理由】
国内外の地理的名称を表示する商標については、その地理的名称の表示する土地において、現実に指定商品が生産、販売されている事実を要せずとも、「その土地において指定商品が生産、販売されているであろう」と需要者・取引者に一般に認識される場合には、当該商標は商品の産地、販売地を表示するにすぎないものと認めます(下記に示す内容に照らせば、コハラにおいて楽器のウクレレが広く親しまれている様子が見受けられます。)。

 

【引用情報】
1)「ハワイ島ガイド アロハ魂クマックス」のサイトに、「コハラコースト(4)ショップ編【ハワイ島】・・・Ukulele House(ウクレレ・ハ
ウス)・・・有名なウクレレ屋さん。日本で見たことないようなウクレレが売っ
ています。さすが本場!エレキのウクレレがあったのには驚きました。・・・」
の記載があります。
(http://www.alohakumax.com/report_kohala_shop.htm)

 

2)「UKULELE Festival HAWAII」のサイトに、「ワイ
コロア・ウクレレフェスティバル・・・グレードワイコロア・ウクレレフェステ
ィバルと銘打った、ハワイ生まれの楽器ウクレレの魅力と文化を讃える音楽イベ
ントは、毎年3月(1:00-7:00pm)ワイコロアビーチリゾートで開催
されます。・・・美しいコハラコーストの海岸線に建つワイコロアビーチリゾー
トで楽しむハワイアンミュージックの祭典は素晴らしい思い出となるでしょう。
・・・」の記載があります。
(http://www.ukulelefestivalhawaii.org/jp/waikoloa.htm)

 

第5. 拒絶査定不服審判請求時
拒絶査定不服審判においては、主に下記の2点を主張しました。

1. 引用資料の妥当性について
(1)引用資料が失当であると主張しました。
 当該引用資料が複数の人の検証を経た信頼の置ける公的資料ではなく、単なる個人のブログ又は非営利団体のホームページだからです。
(2)引用資料の内容からの行われた立証が失当と主張しました。
 引用資料1のウクレレショップは既に閉店しており、引用資料2のウクレレフェスティバルは年に1回限りのものであるため、これをもって「KOHALA」をウクレレの生産地又は販売地と需要者・取引者に一般に認識されていたと論証することには極めて妥当性を欠くからです。

2. 商標法第3条第1項第3号違反とする査定が失当であると主張しました。
 需要者・取引者をしてアメリカの一都市と認識される場合があったとしても、そのことをもって直ちに指定商品の産地、販売地であると認識するとまではいい難いものです。
 本願の指定商品を取り扱う業界において商品の産地、販売地表示として、普通に使用されている事実も見いだすことができませんでした。
 商品の産地又は販売地を表すものとして認識され得るものではなく、自他商品の識別標識としての機能を十分に果たし得るものというべきです。

 

第6. 審決受領時
 心待ちにしていた認容審決(登録査定)を受領しました。

(1)「KOHALA」が、我が国において、一般に広く認識されている地名とはいい難いこと、および
(2)「KOHALA」の語が商品の産地又は販売地を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を見いだすことはできなかったこと、
から、本願商標は、その指定商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得る商標であるという審決でした。

私が主張した内容が全面的に認められました。大変嬉しい結果となりました。

【当審の判断】
 本願商標は、「KOHALA」の欧文字を標準文字で表してなるところ、該文字が、アメリカ合衆国ハワイ州ハワイ島北西部の地名を意味するものであるとしても、我が国において、一般に広く認識されている地名とはいい難いものである。
 また、当審において職権をもって調査するも、「KOHALA」の語がウクレレを含む本願の指定商品を取り扱う業界において、商品の産地又は販売地を表示するものとして、取引上普通に使用されている事実を見いだすことはできなかった。
 そうとすると、本願商標は、これに接する取引者、需要者が本願の指定商品の産地又は販売地を表したものと理解するとはいい難いものであるから、その指定商品について使用しても、自他商品の識別標識としての機能を果たし得る商標であるというべきである。
 したがって、本願商標が商標法第3条第1項第3号に該当するとして本願を拒絶した原査定は、取消しを免れない。その他、本願について拒絶の理由を発見しない。
 よって、結論のとおり審決する。

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